日高屋社長発言の背景にあった「ゼロリセット」がもたらすスイッチング・コスト

――なぜ「日本人を中心に取るしかない」という言葉が出たのか

2026年4月13日、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(WBS)」内での株式会社ハイデイ日高社長の発言が波紋を広げています。

「外国人の特定技能(受入れ)が止まるなら、日本人の高卒・大卒・専門卒を中心に取るしかない」

この趣旨の発言に対し、SNS等では「日本人を代替品のように扱っている」といった批判の声も上がりました。しかし、この違和感を単なる感情論や「失言」として片付けるのは早計です。その背景には、長年外国人労働者に支えられてきた日本の外食産業が直面した、極めて深刻な制度上の壁があるということを理解する必要があります。


1. 「外国人採用」はもはや現場の前提だった

日高屋は以前から、外国人労働者の活躍によって支えられてきた企業です。

  • 労働組合の構成 2018年時点で、ハイデイ日高の労働組合員約9,000人のうち、約3分の1(約3,000人)を外国人従業員が占めていました。現在も公式サイトでは、組合員の約3割が外国籍であると公表されています。
  • 積極的な支援体制 単なる人員確保に留まらず、特定技能外国人の採用や、彼らの職業生活・日常生活の重層的な支援を会社として明記しています。
  • 経営戦略としての位置づけ 2024年1月の会社説明会資料では「外国人の送り出し・支援機関との関係強化」を明文化。中期経営計画でも、国内の少子高齢化を背景に「外国人財の活躍」を不可欠な環境認識として挙げています。

つまり、日高屋にとって外国人採用は「場当たり的な対応」ではなく、数年、十数年先を見据えて莫大なコストと手間をかけて構築してきた「基幹インフラ」そのものだったのです。


2. 2026年4月、突然の「受入れ停止」という激震

今回、発言の引き金となったのは、特定技能1号「外食業分野」の受入れ上限措置です。

出入国在留管理庁(入管庁)は、外食業分野の特定技能1号在留者が受入れ見込数の上限に達したため、2026年4月13日以降に受理した申請は原則として不交付とすることを公表しました。外食企業にとって、これは「主要な採用ルートが突如として遮断された」ことを意味します。

これまで「送り出し機関」との関係を築き、教育体制を整え、現場のオペレーションを外国人スタッフに合わせて最適化してきた企業からすれば、投資してきた戦略が制度変更によって強制的に停止させられた形です。

【特定技能の現状】 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況(令和6年発表分)においても、外国人を雇用する理由の第1位は「労働力不足の解消・緩和」(69.0%)ですが、第2位には「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」(54.7%)が続いています。 外国人労働者はもはや「安価な労働力」ではなく、現場を支える「期待の戦力」となっているのが実態です。


3. 「日本人を取るしかない」に込められた意味

「日本人を中心に取るしかない」という発言は、裏を返せば次のような、”経営者の悲鳴”に近いニュアンスが含まれていたと推察されます。

「日本人だけでは到底足りないから、必死に外国人の受入れ体制を作ってきたのに、その道が絶たれてしまった。ならば、かつてのように(確保が極めて困難な)日本人採用にリソースを全振りする苦しい戦いに戻るしかない」

もちろん、言葉の選び方として、現在働いている日本人従業員や、これから入社を目指す若者への配慮に欠けていた点は公式リリースでも認めている通りかと思います。同社も即座に「日本人労働者を軽視しているかのように受け取られかねない表現があった」として謝罪文を出しています。

① 投資してきたのは「サンクコスト」以上のもの

日高屋が長年かけて構築してきたのは、単なる採用ルートではなく、一種の「独自の供給網(サプライチェーン)」です。

  1. 現地送り出し機関との信頼関係: 質の高い人材を優先的に回してもらうためのパイプ。
  2. 社内の教育・共生マニュアル: 多国籍なスタッフが円滑に回るための現場のオペレーション。
  3. 登録支援機関等との連携: 煩雑な法的手続きをこなすための行政的スキーム。

これらは一朝一夕にできたものではなく、数年単位の「リソース(時間・人・金)」を投下して積み上げた非代替的な資産です。それが政府の「受入れ上限」という外部要因によって、活用不能(デッドアセット化)に追い込まれたわけですから、経営陣としては「これまでの投資は何だったのか」という心理的バイアスが強く働くのは当然と言えます。

② 「ゼロリセット」がもたらすスイッチング・コスト

本来、サンクコストは意思決定から排除すべきものですが、日高屋のケースでは「次の選択肢(日本人採用)への切り替えコスト」が極端に高いことが問題を複雑にしています。

  • 「外国人採用を前提にしたモデル」から「日本人新卒・中途モデル」への回帰は、単なる方針転換ではなく、ビジネスモデルの先祖返りです。
  • 少子高齢化が進む中で、以前のような「日本人だけで現場を回す」状態に戻すには、賃金体系、福利厚生、さらには店舗網の拡大スピードまで、中長期計画のすべてを根底から書き換えなければなりません。

あの社長発言は、その「無理難題」を突きつけられた現場の、あるいは経営の「拒絶反応」が漏れ出たものとも取れます。

③ 感情とロジックの不一致

「日本人が足りないから、外国人を取ってきた」という過去の成功体験(ロジック)がある一方で、制度によってその道が閉ざされたとき、人間は往々にして「今あるリソースへの固執」を見せます。

  • サンクコストへの執着: 「あんなに手間をかけて準備した特定技能が使えないなんて(認めたくない)」
  • 現状維持バイアス: 「日本人採用にリソースを全振りするのは、成功確率が低い(と分かっている)」

この葛藤が、外部からは「日本人を軽視している」ように見える言葉のチョイスに繋がったのではないでしょうか。

行政書士阿部隆昭

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