外国人の在留支援を業務とする行政書士として、日々多くの外国人クライアントと向き合っている。そのような立場から、出入国在留管理庁(入管庁)が公開している「やさしい日本語書き換えツール」について、率直な評価を述べたい。

ツールの概要
このツールは、入管庁の外国人生活支援ポータルサイト上で公開されており、「やさしい日本語」への書き換えを支援するものだ。使い方は3ステップ。語彙・単語を入力→候補をクリック→書き換え例を確認、というシンプルな操作体系になっている。

一見すると、「在日外国人のために行政がデジタルツールを整備した」という印象を受ける。実際、行政の多言語対応・やさしい日本語対応は必要であり、その方向性自体を否定するつもりはない。
技術の実態:AIではなく「辞書検索」
しかし、このツールの技術的な実態を調べると、深刻な問題が浮かび上がる。
このツールは、AI(人工知能)や機械翻訳を使っていない。ベースとなっているのは welltool(ウェルツール)という外部サービスで、仕組みは事前に登録された語彙の辞書データベースを検索するだけのシステムだ。
つまり、登録されていない語彙・フレーズを入力しても、まったく書き換えができない。「候補が見つかりませんでした」という表示が返ってくるだけである。
在留外国人が実際に行政手続きの中で困るような難解な表現――「在留資格認定証明書交付申請」「特定技能評価試験」「技能実習計画認定」――こういった語彙がどれほど登録されているかは、試してみれば容易に分かる。
問題の核心:誰のためのツールか
このツールが「外国人支援のため」であるならば、外国人が実際に困っている場面で機能しなければ意味がない。
行政書士として外国人クライアントを支援する中で痛感するのは、彼らが本当に必要としているのは「日常的な語彙のやさしい言い換え」ではなく、在留手続きに関わる複雑な行政用語・法律用語の説明だということだ。そこにこそ、行政が予算を投じる価値がある。
ところが実際には、自治体のガイドラインから収集した一般語彙の辞書検索システムが、「外国人支援ツール」として公開されている。これは外国人の実際の利益に資するツールとは言いがたい。
「やってる感」行政の問題
政策の世界には「やってる感」という言葉がある。実質的な効果がなくても、対外的に「取り組んでいる」ことを示すための施策のことだ。
このツールが正にそれではないかと危惧する。
予算を使い、外部サービスを導入し、ポータルサイトに掲載する。見た目は整っているが、実際に外国人が使おうとすると機能しない。むしろ「こんな使えないツールを公開するなら、相談窓口を一つ増やしてほしい」というのが、現場の声だ。
行政書士阿部隆昭の視点
私は、外国人支援に関わる政策・予算の使われ方に対して、常に「本当に当事者の利益になっているか」という視点を持ち続けたいと思っている。
外国人の在留手続きは、彼らの生活・仕事・家族の将来に直結する。そこに関わる行政の取り組みは、「やってる感」ではなく、実効性のあるものであるべきだ。
在留支援のやさしい日本語対応が必要であることは間違いない。だからこそ、税金を使って公開するシステムには、それに見合った実効性が求められる。現状のツールはその水準に達していないと、率直に申し上げたい。
