
はじめに
外国人雇用の議論をしていると、必ずと言っていいほど出てくる意見があります。
「人材不足ではない、日本人を採れ」 「外国人を雇う前に、労働環境を整えろ」 「外国人に頼るのは経営者の甘え」
これらの意見には、それぞれ一定の正当性があります。しかし、国がどういう社会像を描いているかという観点が、この議論にはほぼ抜け落ちています。
2026年5月20日、中小企業政策審議会(第45回)で公表された資料を読むと、国の立場が明確に見えてきます。行政書士として在留資格の申請支援に携わってきた立場から、この資料を読み解きます。
国が公式に定義した社会像:「労働供給制約社会」
中小企業庁が2026年5月20日の審議会で提示した戦略のタイトルは次の通りです。
「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」
「労働供給制約社会」とは、人口減少によって働く人の数が構造的に減り続ける社会のことです。
重要なのは「構造的に」という言葉です。景気が回復すれば解決する話でも、求人票の書き方を工夫すれば解決する話でもありません。人口動態として不可逆的に進む現象を、国は「制約」として公式に認めました。
そして審議会資料にはこう明記されています。
「人も中小企業も数よりも質であり、経済の供給力強化のため、『強い中小企業』を作る必要がある」
国は「人の数」ではなく「人の質」で経済を支えるという方向を、公式に打ち出しました。
「外国人を雇えば解決する」論の限界
厚生労働省の公式発表によると、外国人労働者数は令和7年10月末時点で257万1,037人、届出義務化以来過去最多を更新しています。また出入国在留管理庁の公式発表によると、在留外国人数は令和6年末時点で376万8,977人と過去最高を更新しています。
数字だけ見れば、外国人雇用は着実に拡大しています。
しかし国が「労働供給制約社会」という概念を持ち出した意味は、ここにあります。
外国人を増やしても、「数で解決する」時代は終わった。
国が描いているのは、一人当たりの付加価値を高めることで経済を支える社会です。外国人であれ日本人であれ、「何人雇ったか」ではなく「一人当たりどれだけ付加価値を生み出せるか」が問われます。
具体的に、国は「稼ぐ力」を次のように定義しています。
- 付加価値額の増加:適正な価格転嫁の実現、新製品・サービスの開発、ビジネスモデルの改革
- 労働投入量の最適化:自動化・省力化、業務プロセスの改善、人材力の強化
そして中小企業の付加価値労働生産性を5年で15%向上させ、2040年の名目GDP1000兆円への貢献を目指すという数値目標を掲げています。
「人を増やして解決する」発想とは、根本的に異なります。
では外国人雇用はどう位置づけるべきか
外国人雇用と労働供給制約社会政策は、矛盾しません。ただし、前提が変わります。
これまでの外国人雇用の動機の多くは「人が足りないから」でした。欠員補充・繁忙期対応・低コスト労働力の確保。これが「数で解決する」発想です。
国が描く社会では、この動機だけでは不十分です。外国人雇用が意味を持つのは、次のような場合です。
①付加価値向上に直結するスキル・知識を持つ人材の採用 特定の言語能力、専門技術、海外市場へのアクセス。これらは「数の補填」ではなく「質の向上」に資する外国人雇用です。
②一人当たりの生産性が日本人と同等以上であること 「安く使える」という発想は、国の方向性と完全に逆行します。外国人であっても賃上げが求められ、一人当たり賃金で評価される時代になります。
③地域経済や自社ビジョンとの整合性 今回の審議会資料が繰り返し強調するのは「地域経済への貢献」です。外国人雇用が地域の付加価値向上にどう貢献するかを言語化できることが、今後の支援制度活用でも求められていきます。
「人材不足ではない」論への私の立場
「外国人を雇う前に日本人を採れ」「人材不足ではない」という意見は、一定の問題意識として理解できます。
しかし国の公式見解は、より構造的な問題を直視しています。
人口動態として働く人の数が減るのは、日本人・外国人問わず「所与の条件」です。
その条件の下で企業が生き残るには、一人当たりの付加価値を高めるしかない。外国人雇用が「数の補填」として使われるなら、それは国の方向性と合わない。しかし「質の向上」として使われるなら、両立します。
在留資格の申請支援をしていると、外国人雇用を「とにかく人が欲しい」という理由だけで進めようとする企業に多く出会います。その場合、私は必ず問います。
「この方を採用することで、御社の付加価値はどう上がりますか?」
この問いに答えられない外国人雇用は、在留資格の審査においても、今後の国の支援制度においても、評価されにくくなっていきます。
まとめ
国が「労働供給制約社会」という概念を公式に打ち出した意味は重大です。
「人手不足か否か」という議論は、本質を外れています。国は人の数で経済を支える時代は終わったと判断し、一人当たりの付加価値で経済を支える社会設計に舵を切りました。
外国人雇用の議論も、この文脈で捉え直す必要があります。「外国人を雇えば解決する」でも「外国人より日本人を採れ」でもなく、「一人当たりの付加価値をどう高めるか」という問いを起点に外国人雇用を設計する時代になりました。
在留資格の申請は、その設計が整ってから初めて意味を持ちます。
一次ソース:
中小企業政策審議会 第45回(令和8年5月20日)配布資料 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/045/045.html
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68794.html
出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」 https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00052.html
在留資格・外国人雇用に関するご相談は行政書士阿部総合事務所へ
