
法改正の提案が出た。これが何を意味するか
出入国在留管理庁が公表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプランについて」(令和7年5月23日報道発表資料)の中に、外国人を雇用している企業の経営者が必ず押さえておくべき記述がある。
「不法就労助長罪を各業法の欠格事由に盛り込むことを提案する(法改正が必要)。【関係省庁】」
現時点では「提案」であり、法改正はこれからの話だ。ただしこれは、国が「その方向に進む」というシグナルを明確に出したということでもある。この一文を軽く見てほしくない。
「欠格事由」とは何か
欠格事由とは、許認可の取得・更新・継続において「この要件を満たさない場合は認められない」と法律で定めた条件のことだ。
たとえば建設業許可では、役員が一定の刑事罰を受けた場合は許可を受けられない。飲食業の食品衛生責任者も、欠格事由に該当すれば資格を失う。同じ構造が、外国人雇用に関する業法に盛り込まれることが提案されている。
つまり、不法就労助長罪で有罪になった場合に、その会社が営む事業の許認可そのものを失うことになりかねないという制度設計が議論されているということだ。
どの業法が対象になるかは今後の議論次第だが、飲食業・建設業・介護・運輸・警備・製造業など、外国人労働者の雇用が多い業種ほど、当然この改正の影響を受けやすい。
現行法のリスクだけでも既に十分に重い
法改正を待たずに、現行法のリスクを整理しておく必要がある。
入管法(出入国管理及び難民認定法)は、不法就労を助長した事業主に対して3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科すことを定めている。「知らなかった」は原則として免責にならない。
さらに現行制度でも、刑事罰を受けた法人は許認可更新の際に支障が生じる可能性がある。公共事業の入札参加資格を失うケース、取引先のコンプライアンス審査で弾かれるケースも現実に起きている。
今回の法改正提案が通れば、これが**「免許を失う」という、より直接的なペナルティ**として制度化される。
なぜ今、この提案が出てきたのか
「不法滞在者ゼロプラン」の資料全体を読むと、このプランが目指しているのは外国人の排除ではないことがわかる。
資料の冒頭には「不法滞在者ゼロを目指し、ルールを守る外国人と安心して暮らせる共生社会を実現する」と明記されている。適法に在留している外国人、ルールを守って働いている外国人はこのプランの対象ではない。
同プランが問題視しているのは「不法就労を助長している雇用主」の存在だ。被仮放免者や在留資格のない外国人を、安価な労力として使い続ける雇用主がいる限り、不法就労は根絶できない。今回の「各業法への欠格事由化」提案は、雇用主側への抑止力を制度的に強化するための布石と読むべきだ。
「摘発強化」も並行して動いている
同資料では、欠格事由化の提案と並行して、以下の施策も打ち出されている。
「不法就労助長者の摘発強化・厳正に対処。【関係省庁】」 「不適正ヤード対策。【関係省庁】」 「合同・入管単独摘発の強化。【関係省庁】」 「サイバーパトロールの実現。」
摘発強化・サイバーパトロールという言葉が資料に並んでいる。オンライン求人や求人サービスでの不法就労助長も監視対象になっていくということだ。
「現場で何も言われていないから大丈夫」は、もはや根拠のある安心感ではない。
経営者が今すぐ確認すべき4つのこと
法改正が正式に成立するまでの間も、何もしないことはリスクだ。以下の4点を、今この時点で社内で確認してほしい。
① 在留カードの確認が「見た」という形式だけになっていないか 就労可能な在留資格かどうか、就労範囲に制限がないか、在留期限はいつか——この3点を採用時・更新時に確実に確認する体制があるかどうかが問われる。
② 在留期限の管理がデジタルで運用されているか 在留期限は自動では延びない。更新を失念した結果、「気づかないうちに期限切れ」となった外国人社員を雇用し続けてしまう事例は珍しくない。アラートが上がる仕組みの整備が必要だ。
③ 資格外活動の範囲を超えた業務をさせていないか 留学生の採用など、資格外活動許可の範囲内でのみ就労可能な外国人を雇用している場合、週28時間以内という就労時間の管理が形骸化していないかを確認する。
④ 確認体制が「人任せ」になっていないか 担当者が変わったり退職したりすると、確認が止まる。在留資格管理を「仕組みとして会社の運用ルールに組み込む」ことが、企業レベルのガバナンスとして問われている。
今の体制に不安があるなら、専門家に相談を
外国人雇用に関する在留資格の確認・更新管理・届出の手続きは、行政書士がサポートできる業務だ。
「うちの会社は大丈夫か」「どこから手をつければいいかわからない」という段階でも、現状の確認から始めることができる。
法改正が現実になる前に、体制を整えておくことが経営上の判断として正しい。
→ 外国人雇用に関する情報はこちら:外国人雇用|行政書士阿部隆昭の視点
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まとめ——「提案」の段階で動く会社が強い
今回の「不法就労助長罪を各業法の欠格事由に盛り込む」という提案は、まだ法改正には至っていない。しかしこれは「国がその方向に舵を切っている」という明確なシグナルだ。
不法就労助長が発覚すれば、刑事罰・事業ライセンスの喪失・取引停止・社会的信用の失墜——これだけのリスクが連鎖する。その影響は、外国人社員一人の問題ではなく、日本人社員を含む全従業員の雇用と生活にまで波及する。
外国人雇用を「在留カードを見ればよい手続きの話」として捉え続けることの危うさを、今一度確認してほしい。
一次情報として参照:出入国在留管理庁「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプランについて」(令和7年5月23日報道発表資料)https://www.moj.go.jp/isa/content/001462639.pdf
