経営管理ビザ改正の本質——96%減は「結果」に過ぎない。5つの要件が変えたものを俯瞰する。

2025年10月16日、経営管理ビザの許可基準が改正された。

「資本金が3,000万円になった」「申請が96%減った」という報道が話題になっているが、これらは改正の一側面に過ぎない。

この記事では、5つの要件変更を一次ソースに基づいて整理した上で、今回の改正が何を変えようとしたのかという制度趣旨を俯瞰する。


改正の全体像:5つの要件変更

今回の改正(出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令・2025年10月10日公布、10月16日施行)における主な変更点は以下の5つだ。

①事業規模要件:資本金500万円→3,000万円

最も報道されている変更点。資本金または投下総額の最低基準が6倍になった。

ただし「3,000万円の資本金さえあればいい」という読み方は誤りだ。「投下総額」という概念が導入されており、事務所の賃料・設備・人件費等を含めた実際の事業投資の総額で判断される設計になっている。つまり「資本金として3,000万円を口座に入れればいい」ではなく、「実際の事業に3,000万円規模の投資がある」ことを証明する必要がある。

②常勤職員要件:選択制→両方必須

改正前は「資本金500万円以上」または「常勤職員2名以上」のいずれかで要件を満たせた。つまり人を雇わなくても、資本金さえあれば経営管理ビザを取得できた。

改正後は「資本金3,000万円以上」かつ「常勤職員1名以上」の雇用が両方必須となった。

常勤職員として認められるのは日本人・特別永住者・永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者のみで、就労制限のある在留資格の外国人は対象外だ。

③日本語能力要件:新設

改正前は日本語能力に関する要件が存在しなかった。改正後は、申請者または常勤職員のいずれかがJLPT N2相当(B2)以上の日本語能力を有することが必要になった。

注意すべきは「申請者本人でなくてもいい」という点だ。経営者自身が日本語を話せなくても、日本語能力のある常勤職員を雇っていれば要件を満たせる。

④学歴・職歴要件:新設

改正前は学歴・職歴に関する要件がなかった。改正後は、経営・管理に関する修士号・博士号・専門職学位、または経営・管理の実務経験3年以上が求められる。

⑤事業計画の専門家確認:任意→必須

改正前は事業計画書の提出は任意だった。改正後は「具体性・合理性・実現可能性が認められる事業計画書」を、中小企業診断士・公認会計士・税理士のいずれかが確認・評価した上で提出することが必須となった。


なぜこの5要件なのか——制度趣旨を読む

5つの要件をバラバラに見ると「ハードルを上げただけ」に見えるが、設計思想として一貫している。

入管庁が明示した改正の目的は「ペーパーカンパニーを使った在留資格の不正取得の防止」だ。しかしそれだけではない。5要件を並べると、もう一つの意図が見えてくる。

「経営の実体を持つ事業者だけを受け入れる」という方向転換だ。

旧基準の設計は「入口のハードル」が低かった。資本金500万円という数字は、仲介業者を使えば調達できた。常勤職員の雇用は任意だった。日本語能力も学歴も問われなかった。事業計画の実現可能性を誰も確認しなかった。

つまり旧基準は「とりあえず会社を作って500万円用意すれば通る」という設計だった。

新基準は「実際に事業を動かせる人間だけが通る」という設計に変わった。

3,000万円の投下総額は、実際に事業を動かすために必要なコストの証明だ。常勤職員の雇用は、経営者が孤立した個人事業ではなく組織として機能していることの証明だ。日本語能力要件は、日本社会・日本市場との接点を持っていることの証明だ。学歴・職歴要件は、経営を行う能力の証明だ。専門家による事業計画確認は、計画の実現可能性の証明だ。

すべてが「実体のある経営者」を選別するための設計として整合している。


96%減を正確に読む

報道されている「96%減」は、在留資格認定証明書交付申請(COE申請)の件数が、改正前の月平均約1,700件から改正後の月平均約70件に減少したという数字だ。

COE申請とは、海外にいる外国人が新たに日本に入国して経営管理ビザを取得するための申請であり、すでに日本国内で経営管理ビザを持っている人の更新申請ではない。

つまり「日本にいる外国人経営者が96%消えた」という話ではなく、「新規入国を目指す申請が激減した」という話だ。

なぜ激減したのか。旧基準で通ることを前提にしていた案件が、新基準のもとでは申請できなくなったからだ。96%減は「改正が機能している」ことの数字として読むのが正確だ。

ただし、ここに交絡因子がある。改正前の駆け込み申請により、改正直前の月平均申請数が通常より膨らんでいた可能性がある。分母が大きくなれば、比較の結果も大きく見える。96%減という数字を「資本金要件だけの効果」として語るのは不正確だ。


既存保有者への影響:経過措置は「猶予」ではなく「出口の設計」だ

施行日から3年間(2028年10月16日まで)は、新基準に完全に適合していない場合でも、経営状況や適合見込みを踏まえて判断するとされている。

しかし現場の実態は違う。

私の支援先のケースで言うと、経過措置期間内の更新であるにもかかわらず、「ほぼ実質的に改正後の要件を満たさないと更新できないのではないか」という懸念が広がっている。結果として更新せずに帰国を選んだ。

なぜそうなるのか。

3年間の経過措置期間中に、資本金を500万円から3,000万円に増資できる具体的な目処が立たない経営者にとって、経過措置は「準備期間」ではなく「廃業までのカウントダウン」として機能する。

更新のたびに「新基準への適合見込み」を問われる。見込みを示せなければ更新が厳しくなる。3年後には完全適合が求められる。増資の目処がなければ、2回目・3回目の更新を待たずに廃業・帰国を選ぶ方が合理的という判断になる。

つまり経過措置の設計は、既存保有者に対して「3年以内に新基準を満たせるか、満たせないなら出て行け」という構造になっている。それが制度の意図かどうかは別として、現場ではそう機能している。

なお施行日以降、改正後基準に適合していない場合は永住許可や高度専門職2号への変更も認められない。経過措置は「猶予期間」ではなく「出口の設計」として読むべきだ。


申請取次行政書士として見えること

私の事務所の支援先にも、今回の改正に直撃された経営者がいる。

ベトナム国籍、在日10年以上、事業を継続してきた経営者だ。資本金3,000万円という基準を前に、2026年7月の更新を前に帰国を選んだ。「用意できない」という判断だった。

この事例を「制度の失敗」と見るか「制度の機能」と見るかは、単純ではない。

今回の改正の設計思想として一貫していることは、「経営の実体がある事業者を選別する」ことだ。その基準が資本金という「数字」である以上、実態がある経営者でも基準に届かないケースが発生する。

資本金という入口の数字ではなく、営業実績・納税実績・地域での雇用実績という「事業の実態」で判断する設計であれば、この矛盾は解消できる可能性がある。東京商工リサーチの担当者も「運営実績や事業実態を見て許可の判断をする配慮が必要だ」と述べている。

これは感情論ではなく、制度設計の問題として論じるべき論点だ。


まとめ

今回の経営管理ビザ改正を俯瞰すると、5つの要件変更は「実体のある経営者だけを受け入れる」という一貫した設計思想に基づいている。

96%減は改正の結果であり、原因ではない。報道されている数字は「新規COE申請の激減」であり、日本にいる外国人経営者が96%減ったわけではない。

「外国人を締め出した」でも「外国人を差別している」でもない。在留管理制度は外部環境の変化に応じて管理の強度を調整する仕組みであり、今回の改正はその調整だ。

問題があるとすれば、調整の手段として「数字による機械的な判断」を選んだことで、実態のある経営者が弾かれるケースが生じていることだ。その是非は、制度設計の精度の問題として論じるべきだ。

外国人問題は、感情論ではなく、解き方がある。


阿部隆昭(あべ たかあき) 申請取次行政書士 / 東京都地域創業アドバイザー 行政書士阿部総合事務所 代表

参照した一次ソース

  • 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(2025年10月16日施行)
  • 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」
  • 内閣官房「外国人政策に関する102の施策の進捗状況」(令和8年4月28日)
  • 東京商工リサーチ調査(299社回答、2026年3〜4月)
  • 朝日新聞2026年4月30日「外国人経営者、5%『廃業検討』」
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