突然のマイクと、台本なし10分間の外国人政策論

2022年、ハノイで技能実習生の面接に立ち会ったことがある。

面接と言っても、日本でイメージする採用面接とは違う。志望動機を聞くというより、送り出し機関が候補者をふるいにかける場だった。日本語能力、体力、家族構成、借金の有無。そういったことが、順番に確認されていく。

あの光景を見てから、技能実習生という制度を「外国人問題」という言葉でひとまとめにするのが、少し難しくなった。


先日、ある政党の政治塾で、突然街頭演説の機会をいただいた。

「テーマは自由。時間は10分」

台本はない。話す順番も決めていない。ほぼ即興に近い状況。

正直に言えば、大きな緊張はなかった。

セミナー講師として人前に立つ機会は多々ある。さらに、北区赤羽で行政書士として14年間、外国人の在留手続きや雇用の現場に関わってきており、YouTubeチャンネルやWEBサイトで常に発信を続けていることから、話す内容が自分の中にあった。


駅前でマイクを持って気づくのは、聴衆が「聞きに来ていない」という事実。

バスを待っている人、昼食を終えた人、仕事の途中で通り過ぎる人。その人たちの数秒に耐えられる言葉でなければ、10分話しても何も届かない。

私がその場で伝えようとしたのは、一つのことだった。

外国人問題は、感情論ではなく、解き方がある。


たとえば、こんな話をした。

高市政権になってから外国人への締め付けが激しくなったと言われる。街からカレー屋が消えるという話もXで流れていた。しかし実際には、政府が進める「不法滞在者ゼロプラン」は、適法に在留する外国人は残り、違法な状態にある外国人には出てもらうという、以前からある方針の執行に過ぎない。新しい排除政策ではない。

外国人雇用の助成金が、外国人本人への給付だという誤解もある。実態は違う。企業が外国人を雇用した際に支給される助成金は、日本語教育や社内規定の多言語化といった、職場環境の整備に使われる。外国人個人に渡るお金ではなく、企業全体の基盤づくりに使われる仕組みだ。

外国人の犯罪率が日本人の1.72倍という数字も、そのまま読むべきではない。その数字の読み方については、別のブログに書いた。


こういった話を、街頭で10分話した。

完成度が高かったとは言えない。一つのメッセージに絞り切れなかった部分もある。本来であれば、核となる一文を最初に置き、それを繰り返しながら具体例で肉付けするべきだった。

ただ、実地でしかわからないことがあった。

駅前は、論を積み上げる場所ではない。「あとで調べたくなる一言」を残せるかどうか、それだけを問われる場所だ。


行政書士として外国人政策の現場にいると、報道や政治の言葉と、実態の間にある落差が見える。

現場を知らない人が、現場の政策を作っている。

それが、私が外国人問題について発信を続けている理由の一つでもある。

感情論ではなく、制度と事実を踏まえて考えること。その作業は地味で時間がかかるが、それをしないと、問題は解決しないまま感情だけが積み上がっていく。

突然のマイクは、そのことを改めて確認する機会になった。

行政書士阿部隆昭

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