2025年4月3日、政府が専門職向け在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、技人国)の取得要件に日本語能力の証明を求める方針を固めたことが報じられた。
日本語を用いる業務に就く目的で新規に技人国を申請する場合、CEFR B2レベル、日本語能力試験(JLPT)でN2相当の能力証明を求めるというものだ。4月中旬にも指針が改定される見込みとされている。
Xではこのニュースに対して「外国人を追い出す気か」「日本語ができない外国人を排除している」という反応も一部に広がっている。私の見方はまったく逆だ。
この改正は、外国人雇用を機能させるための、実務的に筋の通った変更だ。
技人国とは何のための在留資格か
出入国在留管理庁の定義によれば、技人国は「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う、理学・工学その他の自然科学の分野若しくは法律学・経済学・社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を必要とする業務または外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」を対象とする在留資格だ。
要するに、専門的な知識・技術・感性を活かした業務のための在留資格だ。
しかし実態として、この資格は「とりあえず就労できる在留資格」として広く使われるようになってきた。単純労働への従事が横行し、本来の趣旨と乖離した運用が問題視されてきた背景がある。
今回の指針改定は、その実態への対処でもある。
N3ではなくN2であることの意味
今回の要件がN3ではなくN2とされた点について、私は行政書士として実務の感覚から強く賛成する。
N3とN2は、試験の区分が一つ違うだけではない。現場で実感する能力差は大きい。
N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」レベルだ。これは「なんとなく意思が伝わる」段階と言ってよい。
N2は「日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる」レベルだ。実務の文脈では、書類を読み込む、指示を正確に理解する、報告を文章で行う、会議で発言する——こうした専門職としての基本動作が、N2からようやく現実的な形で機能し始める。
「専門知識を活かした業務をするために来日した人材が、専門業務を遂行できる言語能力を持っているかを確認する。」この発想は、実務として極めて自然だ。
受入企業にとっても、N2要件は歓迎すべき変化だ
外国人雇用において、企業が最も悩む課題の一つがコミュニケーションだ。
厚生労働省「地域外国人材受入・定着モデル事業」の資料でも、受け入れ準備における重要事項として「関わる人の理解と心得」が強調されている。異文化を理解し、相手のことを知ることで的確な準備が進み、信頼関係構築につながるとされている。
しかしその前提として、双方が意思疎通できる言語能力が必要だ。やさしい日本語を意識するだけでコミュニケーションが改善するとされているが、受け取る側にN2相当の理解力があってこそ、「やさしい日本語」は効果を発揮する。
採用コスト、育成コストをかけて人材を受け入れる企業にとって、最も避けたいのは早期離職だ。早期離職の主要因の一つが、職場でのコミュニケーション不全だ。
N2を前提とした採用であれば、業務指示の精度が上がり、誤解が減り、信頼関係を築くまでの時間が短縮される。これは企業にとっての投資対効果の問題でもある。
言語能力の要件化は、外国人雇用を閉じる施策ではなく、外国人雇用をより機能させるための条件整備だ。
政府の方向性との整合
今回の指針改定は、政府が「不法滞在者ゼロプラン」で掲げた方向性とも整合している。
そのプランの核心は「ルールを守る外国人を積極的に受け入れる一方で、ルールを守らない外国人は確実に退去させる」というものだった。技人国の日本語要件の導入は、「専門職として来日する人材が、専門職として機能できることを確認する」という入口管理の強化であり、この方向性に沿っている。
専門職として来日し、適切な職場環境の中で能力を発揮する——その前提が整えば、不法就労や早期帰国のリスクも下がる。外国人が日本で安定して在留し、社会の構成員として機能することにも、この要件は貢献する。
「排除」ではなく「入口の設計」という視点
このニュースへの反応で「外国人を排除している」という見方が出るのは、背景の文脈が共有されていないからだと思う。
N2を取れない人が締め出されるのではなく、専門職ビザを使って専門業務に従事しようとする人が、その業務に必要な言語能力を持っているかを確認する、という話だ。
日本語を必要としない業務であれば、技人国の対象から外れるわけではない。今回の改定は、日本語を用いる業務に就く場合を対象としており、英語や他の外国語を主に使う専門職の役割には影響しない場合もある。
また、留学生からの在留資格変更については今回の要件から除外されるとされており、実態に即した設計になっている。
行政書士としての視点から
技人国の申請に関わってきた実務の立場から言えば、これまで「なぜ日本語能力の確認がないのか」と感じてきた場面は少なくなかった。専門職として採用された外国人が、日常的なコミュニケーションに支障をきたし、職場に摩擦が生まれているケースを見てきたからだ。
N2という基準が正解かどうかは、今後の運用の中で見えてくる部分もある。ただ方向性としては、「専門職ビザで来日する人材が、専門業務を遂行できる状態で来日する」という入口設計の強化は、外国人本人にとっても、受け入れ企業にとっても、長期的には適切な変化だと考えている。
外国人雇用は、適切な設計のもとで機能する。今回の改定は、その設計の一部を整えるものとして、実務家の立場から評価している。
参考にした公的資料・報道
- 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html)
- 共同通信「政府、技人国ビザの日本語能力要件を厳格化へ」(2025年4月3日)
- 厚生労働省「地域外国人材受入・定着モデル事業」資料

