モスバーガーが「ベトナム家族」と呼ぶ取り組みの正体——特定技能を「使い捨て」にしない経営とは


Yahoo!ニュースにモスバーガーの記事が出ていた。ベトナム人材が特定技能ビザで来日し、店長・幹部候補生として活躍しているという内容だった。

この種のニュースは、受け取り方が人によって大きく分かれる。「外国人が日本人の仕事を奪う」と読む人もいれば、「多様性の推進で素晴らしい」と読む人もいる。どちらも、その取り組みの背景を十分に把握しないままの反応だと私は思う。

背景を知ると、見え方がかなり変わる。


発端は2019年のリリースだった

モスフードサービスが「ベトナム家族」と名付けた取り組みを最初に公表したのは、2019年10月のことだ。コロナ禍前のリリースである。

その内容は、ベトナム国立ダナン観光短期大学と提携し、独自の教育カリキュラムを開発したというものだった。このカリキュラムを修了した学生が、特定技能の在留資格を取得し、モスフードサービスに採用されるという流れだ。

教育プログラムの期間は12ヶ月。語学研修、外食産業に関する技能研修、そしてモスフードサービス独自のカリキュラムがこの12ヶ月に詰め込まれている。修了後、特定技能試験に合格した学生が、送り出し機関を経て日本国内のモスバーガーで働くという仕組みだ。


「ベトナム家族」が意味するのは、定住ではない

ここが、このニュースを表面だけで読むと見落とされる核心部分だ。

「ベトナム家族」というネーミングを聞いて、「ベトナム人が日本に定住して家族を作る取り組みだ」と受け取る人がいるかもしれない。しかし実態はまったく逆で、この取り組みの設計において「5年後の出口」が最初から組み込まれている。

特定技能1号の在留資格は、原則として通算5年が上限だ。5年間、日本のモスバーガーで働いた後、その人材はどうなるのか。

モスフードサービスが想定しているのは、本国への帰国後もモスの「仲間」であり続けるということだ。具体的には、アジア各国に展開するモスバーガーの店舗での就業を目指す、という将来像が示されている。日本で培ったスキルと経営理念を持った人材が、アジア全体のフードビジネスに貢献する——その大きな枠組みの中に「ベトナム家族」という取り組みが位置付けられている。


モスバーガーのアジア展開という文脈

この取り組みを理解するためには、モスフードサービスのアジア事業の文脈を知る必要がある。

2026年1月時点で、モスフードサービスの海外店舗は台湾・シンガポール・香港・タイ・韓国・フィリピンの6つの国と地域に展開しており、総数は422店舗(2024年12月時点)だ。海外事業は黒字化を達成しているが、不採算店舗の整理や収益性改善の取り組みが続いている段階でもある。

そして、ベトナムにはまだ1店舗もない。

「ベトナム家族」のリリースが出た2019年には、2023年度までにベトナムに10店舗を出店する計画も同時に発表されていた。しかしコロナ禍の影響もあり、その計画は予定通りには進まなかった。

つまり「ベトナム家族」とは、ベトナムでのモスバーガー展開という事業計画と連動した人材育成プログラムでもある。日本で特定技能として働く5年間は、将来のベトナム現地事業を担う人材を育てる期間でもある、という戦略的な意図が読み取れる。


「人手不足だから外国人を使う」とは違う

外国人材の活用に関する議論では、しばしば「人手不足の穴埋め」という文脈が前提とされる。確かにそういう側面がある企業も多い。しかしモスフードサービスの取り組みは、少なくとも設計の段階においては、そこから一歩踏み込んでいる。

リリースには「人間貢献・社会貢献の経営理念のもと」という言葉が使われている。アジア全体のフードビジネス人材の育成への貢献を目指す、という表現もある。労働力の調達ではなく、人材育成と事業展開を一体のものとして組み立てている点が、この取り組みの特徴だ。

もちろん、計画と現実は違う。ベトナム出店は遅れており、5年間働いて帰国した人材が実際にアジアのモスで働けているのかどうかは、現時点で追跡するには情報が限られる。計画の理念と実態の間にどれだけの乖離があるのかは、引き続き注目すべき点だ。


行政書士として何を見ているか

私が在留資格の実務に関わる中で感じるのは、特定技能制度を「5年間だけ安い労働力を確保する手段」として使っている企業と、「それ以上の何か」を設計しようとしている企業とでは、外国人材との関係の作り方がまったく違うということだ。

前者の場合、5年間が終わると外国人側にも企業側にも、ただ「終わった」という感覚しか残らない。後者の場合、5年間が終わった後にも何らかの関係性が続く可能性が設計されている。

どちらが正しいかという話ではなく、制度の使い方の幅がここにある、ということだ。

モスフードサービスの「ベトナム家族」は、特定技能という制度を「使い捨て」にしない一つの設計例として、読み解く価値がある。

ニュースの見出しだけでなく、その背景にある設計と意図を知ることが、外国人問題・移民問題を考える上での出発点になると思っている。


参考

  • モスニュース「ベトナム国立ダナン観光短期大学と提携し独自の教育カリキュラムを開発」(2019年10月)
  • モスニュース「有力現地パートナーと提携し2023年度までに10店舗出店」(2019年11月)
  • モスフードサービス 会社情報・中長期経営計画
  • 動画:モスバーガーが「ベトナム家族」と呼ぶ取り組みとは(行政書士阿部隆昭の視点)
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