「マーケティング担当」と書けば技人国になるわけではない――SNS・動画業務と在留資格

外国人を「マーケティング担当」「SNS担当」「動画ディレクター」として採用する企業が増えています。

ところが、雇用契約書や内定通知書にマーケティングと書けば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下「技人国」)が認められるわけではありません。

入管が確認するのは肩書ではなく、外国人が日本で実際に行う活動です。毎日何を行い、どの仕事が中心で、どの程度の専門知識を必要とし、その人の学歴や職歴とどう結びつくのかが問われます。

「マーケティング」は技人国の例示だが、名称だけでは足りない

出入国在留管理庁は、技人国の該当例として「マーケティング業務従事者等」を挙げています。

ただし、技人国の活動は、日本の公私の機関との契約に基づき、自然科学・人文科学の技術や知識を必要とする業務、又は外国の文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務に従事する活動です。

したがって、社内でマーケティングと呼んでいても、実態が定型的な投稿作業、撮影補助、商品の梱包、一般的な接客などであれば、肩書だけで専門業務になるわけではありません。

反対に、SNSや動画に関係する仕事がすべて技人国の対象外という意味でもありません。企画、顧客分析、広告戦略、数値分析、改善提案、ブランド設計など、専門知識を用いる活動が中心であれば、具体的な職務と立証資料に基づいて検討できます。

SNS・動画業務を一つの箱に入れない

例えば「YouTubeチャンネル責任者」という肩書には、次のような活動が混在します。

専門性を説明しやすい活動

  • 市場・競合・視聴者の調査
  • チャンネル戦略とKPIの設計
  • 広告・コンテンツ企画
  • アクセス解析と改善提案
  • 予算管理、外注管理、進行管理
  • ブランド方針や広報施策の立案

内容と割合を慎重に確認する活動

  • 動画への出演
  • カメラを使った撮影
  • 動画編集、字幕入れ、サムネイル制作
  • SNSへの投稿、コメント管理
  • 機材の運搬、撮影場所の設営
  • その他の一般事務や補助作業

後者が直ちに一切認められないという整理ではありません。問題は、雇用期間中の活動全体を見たときに、専門的・技術的な業務が中心であるか、付随業務との関係が合理的かという点です。

申請のために業務割合を作るのではなく、実際の業務設計を数字に落とします。

企業が先に決めるべき6項目

採用候補者の資料を集める前に、企業側が次を確定します。

  1. 採用後に達成してほしい経営上の目標
  2. 中心となる業務と、その具体的な成果物
  3. 各業務のおおよその時間・割合
  4. 所属部署、上司、指揮命令系統
  5. 日本人社員や外注先との役割分担
  6. その業務に専門知識が必要な理由

「反響を増やす」「認知度を高める」といった目標だけでは、本人が毎日何をするか分かりません。市場調査報告、企画書、広告運用計画、分析レポート、改善提案など、担当者が作成する成果物まで具体化すると、専門性と会社の必要性を説明しやすくなります。

「国際業務」は外国人が行う仕事という意味ではない

技人国の「国際業務」は、外国人であれば利用できる区分ではありません。外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務であることが前提です。

基準では、翻訳、通訳、語学指導、広報、宣伝、海外取引、服飾・室内装飾のデザイン、商品開発などが例示され、原則として関連業務について3年以上の実務経験が必要とされています。大学卒業者が翻訳・通訳・語学指導に従事する場合には例外があります。

そのため、次の説明だけでは十分ではありません。

  • 外国人向けの動画だから国際業務
  • 外国人本人が出演するから国際業務
  • 母国語を少し使うから国際業務
  • 海外でも視聴できるSNSだから国際業務

誰に対し、どの文化的背景や言語能力を用い、どのような企画・広報・取引業務を行うのかを具体化する必要があります。

「人文知識」として検討する場合

市場調査、マーケティング戦略、広告運用、経営分析などを中心業務とする場合には、人文科学分野の知識を必要とする業務として検討することがあります。

その場合も、本人側の要件として、原則として次のいずれかが必要です。

  • 関連科目を専攻して大学等を卒業したこと
  • 関連科目を専攻して日本の専門学校の対象課程等を修了したこと
  • 関連する業務について10年以上の実務経験があること

「マーケティングの経験が長い」という自己申告だけでは足りません。学位・専攻、在職期間、担当業務を客観資料で確認し、企業が予定する業務との関連性を検討します。

10年の実務経験をどのような資料で立証するかは、別記事「学歴がない外国人の『10年の実務経験』は何で証明するか――在職証明書だけでは足りない場合」で詳しく扱います。

報酬を高くすれば許可されるわけではない

技人国では、日本人が同じ仕事に従事する場合と同等額以上の報酬であることが要件です。

しかし、高い給与を設定することで、仕事内容や学歴・実務経験の不足が補われるわけではありません。給与は重要な審査要素の一つですが、在留資格該当性や上陸許可基準とは別に確認されます。

企業は、給与だけを強調するのではなく、専門職としての役割、会社の事業との関係、本人の知識・経験とのつながりを一体として説明します。

申請書と実際の仕事を一致させる

許可を得るために、実際には行わせない専門業務を申請書へ記載することはできません。反対に、申請書では企画・分析が中心と説明しながら、入社後は撮影、編集、投稿、雑務ばかりを担当させることも問題です。

社内では次の資料を一致させます。

  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • 職務記述書
  • 組織図と指揮命令系統
  • 業務割合表
  • 会社案内、事業計画、取引資料
  • 採用後の目標・評価基準
  • 入管へ提出する申請書・理由書

入管向けの説明と、人事・現場責任者の認識がずれていれば、許可後の適正な雇用管理もできません。

転職者は現在の在留資格名だけで判断しない

すでに技人国を持つ外国人を中途採用する場合でも、前職で認められていた業務と、新しい会社で予定する業務が同じとは限りません。

在留カードに技人国と書かれていることだけで、新しい仕事も当然にできると判断せず、本人の現在の許可範囲と自社業務を確認します。判断が難しい場合には、就労資格証明書を利用する方法があります。

阿部隆昭の視点――職種名を考える前に、仕事を設計する

外国人採用で順序を誤りやすいのは、先に「技人国が取れそうな職種名」を考えてしまうことです。

本来は、会社が必要とする仕事を具体化し、その仕事が在留資格上どの活動に当たり、候補者の学歴・職歴で立証できるかを確認します。適合しない場合には、肩書を変えるのではなく、採用計画そのものを見直す必要があります。

SNSや動画は、企業にとって重要な経営資源です。だからこそ、撮影や投稿という目に見える作業だけでなく、誰が戦略を立て、誰が分析し、誰が制作し、誰が最終責任を負うのかを整理することが、在留資格の説明にも事業運営にも役立ちます。

予定業務と在留資格の事前確認に対応しています

行政書士阿部総合事務所では、外国人候補者へ内定を出す前の段階から、予定業務、業務割合、学歴・職歴を確認し、在留資格上の論点を整理します。

  • マーケティング業務として技人国を検討できるか
  • SNS・動画業務のどこを中心業務として説明すべきか
  • 国際業務と人文知識のどちらに当たるか
  • 学歴又は実務経験の資料が足りているか
  • 転職後の業務について就労資格証明書を利用すべきか

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シリーズの親記事:内定後に「今は働けない」と分かった――外国人採用で確認が内定後になると何が起きるか

参考にした公的資料

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