外国人本人から履歴書と在留カードを受け取り、自社の雇用契約書を用意すれば、在留資格変更の検討を始められる――単純な案件であれば、そのように進むこともあります。
しかし、過去に別の在留資格への変更申請をしている、不許可や取下げがある、複数の専門家へ相談している、本人の説明と手元の資料が一致しない、といった事情がある場合、今回の雇用条件だけを切り取って判断することはできません。
本記事の表題にある「一本の時系列で確認する」は、法令の条文に書かれた言葉ではありません。実務上、在留資格変更・更新では、現在の活動だけでなく、それまでの在留状況、在留の必要性、在留中の状況等が総合的に考慮されるため、過去から現在までを一つの時系列にして確認する必要がある、という意味です。
新しい勤務先の説明だけでは完結しない
在留資格変更許可申請では、新しい会社で予定する活動が在留資格に該当するかが中心となります。しかし、審査は新しい雇用契約だけを白紙の状態で見るものではありません。
例えば、過去の申請で「今後は自ら事業を経営する」と説明していた人が、短期間のうちに「会社員として専門業務へ従事する」と申請する場合、活動方針が変わった理由を説明する必要が生じることがあります。
方針が変わること自体が直ちに問題なのではありません。事業計画が実現しなかった、雇用の機会を得た、生活状況が変化したなど、事実に基づいて経緯を説明できることが重要です。
最初に在留・申請の時系列を作る
複雑な案件では、申請書を作る前に、次の項目を年月日順に並べます。
| 年月日・期間 | 在留資格・手続 | 申請理由・予定活動 | 結果 | 根拠資料 | 関与した専門家 |
|---|---|---|---|---|---|
| 年月日 | 変更・更新等 | 当時の説明 | 許可・不許可・取下げ等 | 申請書控え等 | 委任範囲 |
在留カードや旅券だけでは、過去にどのような説明を提出したかまでは分かりません。本人の記憶だけに頼らず、申請書と添付資料の控え、受付票、結果通知などを確認します。
確認する資料は6つのまとまりに分ける
資料が多いときは、次のまとまりに分けると整理しやすくなります。
1.身分・在留状況
- 現在と過去の旅券
- 現在と過去の在留カード
- 指定書、資格外活動許可書
- 出入国の記録
2.過去の申請と結果
- 在留資格変更・更新等の申請書控え
- 申請受付票
- 追加資料提出通知と提出した回答
- 許可時の指定書・結果資料
- 不許可通知、取下げに関する資料
3.過去の説明内容
- 理由書、説明書、陳述書
- 事業計画書、収支計画
- 履歴書、職歴書
- 契約書、組織図、業務内容説明書
4.現在までの実際の活動
- 雇用・業務委託契約
- 報酬、給与、入金記録
- 税務・社会保険関係資料
- 事業や業務の成果物
5.今回の雇用計画
- 内定通知書、雇用契約書、労働条件通知書
- 職務記述書、業務割合
- 所属部署、指揮命令系統
- 学歴・職歴を証明する資料
6.専門家との関係
- 誰に、どの手続を依頼しているか
- 委任契約の範囲
- 既に提出済み又は作成中の書類
- 本人が各専門家へ情報共有することに同意しているか
「説明が変わった」と「虚偽」は同じではない
時間の経過により、就職先、事業計画、家族状況、活動方針が変わることはあります。過去と現在の説明が異なるからといって、直ちに虚偽と決めつけるべきではありません。
一方で、違いを把握しないまま新しい説明を提出すると、過去の申請資料と矛盾して見える可能性があります。
次の順序で整理します。
- 過去に何を申告したか
- 当時の申告は事実に基づいていたか
- その後、いつ、何が変わったか
- 変更を裏付ける資料があるか
- 今回の活動が現在の事実と一致しているか
大切なのは、過去を消すことではなく、変更の経緯を正確に説明することです。
不許可歴は理由を確認する
不許可になった事実だけで、次の申請も必ず不許可になるとは限りません。反対に、「別の在留資格だから関係ない」と無視することも適切ではありません。
可能であれば、本人が入管で不許可理由の説明を受けた際の記録、提出資料、通知書を確認します。要件不足、資料不足、事業の実現可能性、申告内容の不整合など、何が問題だったかによって、今回確認すべき点が変わります。
本人が不許可理由を三つ挙げていても、それが入管の説明を正確に記録したものか、本人の解釈かは分けて扱います。
取下げや未完了の手続にも注意する
取下げは不許可とは異なりますが、なぜ申請し、なぜ取り下げたかを把握しておく必要があります。また、別の更新・変更申請や、他の法的手続が継続している場合には、今回の申請との関係を確認します。
「現在申請中」という説明を受けたときは、申請受付票で手続の種類と申請日を確認します。在留期間更新と在留資格変更では意味が異なり、本人が用語を取り違えている場合もあります。
他の行政書士・弁護士が関与している場合
専門家が複数関与していること自体が問題なのではありません。しかし、誰が何を受任し、どの資料を確認し、何を入管へ提出しているかが分からないまま、新たな申請を進めることはできません。
まず本人から、関与する専門家と委任範囲を確認します。その上で、必要があれば本人の同意を得て、提出済み資料や手続状況を共有します。
一つの手続について重複した代理・取次関係が生じないようにし、在留関係以外のセンシティブな相談内容は、今回の雇用・申請に必要な範囲を超えて会社へ共有しないよう区分します。
会社に共有するのは採用判断に必要な範囲
企業が知る必要があるのは、主に次の事項です。
- 現在、自社で就労できるか
- 就労開始前に変更許可等が必要か
- 予定業務と本人の経歴を立証できるか
- 申請を検討する上で未確認の重要事項があるか
- 許可・時期を保証できないこと
一方、別の法的手続の具体的理由、私生活上の事情、採用判断に不要なセンシティブ情報まで、そのまま企業へ開示する必要はありません。
本人から会社への情報提供に同意を得る場合も、「すべて共有してよい」という包括的な表現だけに頼らず、共有する目的と範囲を明確にします。
申請書控えを本人と会社で管理する
申請書や理由書を提出した後、控えが本人の手元に残っていないと、転職や更新の際に過去の説明を確認できません。
少なくとも、本人は提出した申請書・添付資料・追加提出資料・結果資料の写しを一式で保管します。会社が作成した雇用・事業関係資料についても、社内で最終提出版を保管します。
これは次回の申請を有利にするために過去の説明へ合わせる、という趣旨ではありません。事実関係を正確に確認し、変更がある場合にその経緯を説明するためです。
阿部隆昭の視点――複雑案件は申請書を書く前の調査が中心になる
在留資格申請は、書式へ情報を入力するだけの仕事ではありません。複雑な在留履歴がある場合、最も工数がかかるのは、断片的な申告と原資料を時系列に並べ、未確認事項と矛盾を切り分ける作業です。
この調査をせずに「通りそうです」「変更できます」と先に結論を出すことはできません。企業が早期採用を希望する案件ほど、資料提出の期限と担当者を決め、会社・本人・専門家の役割を明確にする必要があります。
複雑な在留履歴の事前調査に対応しています
行政書士阿部総合事務所では、過去の申請書、理由書、結果資料と、今回の雇用計画を整理し、在留資格変更を検討する前提が整っているかを確認します。
- 過去の変更申請や不許可・取下げがある
- 申請書控えが散在し、時系列が分からない
- 本人の説明と資料が一致しない
- 複数の専門家が関与している
- 会社へ共有する情報の範囲を整理したい
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