行政書士として、在留資格の申請取次をしている。
外国人の依頼者と話すとき、いつも感じることがある。手続きの問題ではなく、生活の問題が先にある、ということだ。
住む場所が見つからない。病院にどう行けばいいかわからない。近所に話せる人がいない。
そういう話を聞きながら、「これは区の政策が扱うべき問題だ」と思ってきた。では北区は、実際にどんな実態を把握しているのか。公式の一次ソースを読んだ。
北区外国人意識・意向調査(令和5年度)とは
北区が2023年度に実施した調査で、区内在住の外国人697名が回答している。国籍別では中国が約半数、在留資格は永住者・技術人文知識国際業務・留学が上位を占める。
つまり回答者の大半は、観光客でも不法滞在者でもなく、北区で生活している人たちだ。
調査が示した「困りごと」の正体
調査で「生活していて困っていること」を複数回答で聞いている。上位はこうだ。
- 近隣住民との会話が少ない(23.2%)
- 友だちが少ない(18.7%)
- 外国人同士で集まるところが少ない(18.5%)
- 相談できる場所や人が少ない・わからない(17.8%)
言語の壁や医療・住まいの問題も一定割合で存在するが、上位4つはすべて「つながりの欠如」だ。
ここで多くの政策が間違える。「多言語対応を増やせばいい」「窓口を作ればいい」という発想は、この調査結果と噛み合っていない。窓口の存在が問題ではなく、辿り着けないことが問題なのだ。
情報はどこから取っているか
調査では情報取得の手段も聞いている。
「知りたいことをどうやって調べるか」という問いに対し、SNSと答えた人が87.4%。前回調査(令和元年度)から大幅に増加している。
最も使うSNSは、Facebook・WeChat・LINEの順だ。
北区は公式HPの翻訳言語を108言語に拡大している。これ自体は評価できる取り組みだ。しかし、情報を取得する行動がSNS中心である以上、HPを多言語化するだけでは情報が届かない局面が残る。
「供給側の整備」と「需要側の行動」がずれている。これが現状だ。
北区議会は何を提案してきたか
北区議会の各会派・議員の一次資料を確認した。
外国人政策として確認できた提案は、窓口・相談の集約、反差別・ヘイト対策、外国人児童の日本語支援、防災訓練への参加促進、情報保障の強化——この範囲に集中している。
一方で、ほぼ誰も提案していない領域がある。
- 外国人を雇用する企業が社会統合コストを負担する仕組み
- 住まいの契約トラブルへの事前介入
- SNSの行動様式に合わせた情報発信の設計
これらは「存在しない」のではなく、「一次資料で明示的に確認できない」という意味での空白だ。
なぜ実務家が政策に関与する必要があるのか
国の方針は明確だ。
法務省の出入国在留管理庁が示す通り、「ルールを守る外国人を積極的に受け入れる一方で、安全・安心を脅かす外国人の入国・在留を阻止する」——これが基本線だ。
これは日本人だけでなく、地域で暮らす外国人住民にとっても同じ話だ。安全・安心を脅かす存在は、同じ地域に暮らす外国人市民にとっても脅威である。
だからこそ問われるのは、「誰に、何をすべきか」を正確に判断できる知見があるかどうかだ。
入管の実務を知らなければ、在留資格ごとに異なる生活実態が見えない。特定技能と技人国では、企業との関係も生活上のリスクも違う。永住者と留学生では、必要な支援の種類が根本から異なる。
その区別なしに「外国人支援」を設計しても、誤った相手に誤った打ち手を実行することになる。それは問題を解決しないどころか、移民問題をより先鋭化させる。
私が提案すること
北区の調査データと議会の一次資料を読んだ上で、4つの柱を提案している。
① 伴走型相談窓口の制度化
「相談先がわからない」17.8%を解消するため、行政書士・社労士・通訳を組み合わせたケースマネジメント型相談を区が委託実装する。案内で終わらせず、解決まで完結させる。
② 雇用企業との「社会統合協定」
技術人文知識国際業務・特定技能の在留外国人を雇う企業が、防災・相談・多言語研修に参加する協定を区と締結する。生活コストを区と本人だけに負わせない仕組み。
③ 住まい契約トラブルの「事前介入」
外国人の住まいトラブルは契約後に発生する。多言語の契約チェックシートを区内不動産業者に配布し、トラブルが起きる前に介入する。
④ SNSファースト情報発信の制度化
WeChat・Facebook・LINEに、災害・医療・手続の重要情報を多言語・短文・図解で届ける発信体制を区に実装させる。
最後に
外国人問題は、感情論ではなく、解き方がある。
データがある。一次資料がある。実務の知見がある。それを政策設計に繋げる人間が、区議会に一人いれば変わる。
私はそのために動いている。
阿部隆昭(あべ たかあき)
申請取次行政書士 / 東京都地域創業アドバイザー
行政書士阿部総合事務所 代表
abetakaaki.com