外国人を採用する際、在留資格の確認や変更申請に費用がかかることがあります。
「本人の在留資格だから、本人が払うべきではないか」
「会社が採用するための手続だから、会社が払うのではないか」
「許可される保証がない費用を、会社は負担できない」
いずれも実務で聞く意見です。しかし、費用の目的を分けないまま負担者だけを決めると、採用条件、行政書士への依頼、本人との貸付・返還条件が混ざり、思わぬ誤解や労務問題を招きます。
最初に整理すべきなのは、「いくらか」よりも、誰が、何を確認・実現するために、誰へ依頼する費用なのかです。
費用を四つに分ける
外国人採用に関する費用は、少なくとも次の四つに分けて考えます。
1.採用前の確認・調査費用
在留カード、指定書、申請履歴、学歴・職歴、予定業務を確認し、申請を検討できる状態かを整理する費用です。
複雑な案件では、本人面談、過去資料の精査、時系列作成、実務経験の証拠評価、他の手続や専門家との関係確認が必要になります。これは申請書作成とは別の調査業務です。
2.在留資格申請の支援報酬
申請方針が定まり、行政書士が正式に受任した後の申請書作成、理由書作成、添付資料の整理、申請取次等に対する報酬です。
調査の結果、申請を受任できない場合もあるため、調査費用と申請報酬を分けることがあります。
3.官公署へ納付する手数料
在留手続の種類によって、許可時などに所定の手数料が必要となる場合があります。行政書士報酬とは別の費用です。
4.翻訳・証明資料の取得費用
卒業証明書、在職証明書、公的登録、納税記録等の取得、翻訳、認証、郵送などにかかる費用です。外国の機関や資料の種類によって変わります。
一律に「会社負担」「本人負担」と決まっているわけではない
一般的な技人国等の申請について、行政書士報酬を常に会社又は本人のどちらかが負担しなければならない、という一律のルールがあるわけではありません。
実務では、手続の種類、依頼者、採用目的、会社の方針、本人の利益、費用の内容を踏まえて決めます。
ただし、負担者を決める前に、次を明確にする必要があります。
- 行政書士へ依頼するのは会社か本人か
- 誰が業務内容を指示し、報告を受けるか
- 誰が請求書の宛先となるか
- 費用を払っても許可が保証されないこと
- 不許可、取下げ、採用中止の場合の精算
- 本人の個人情報を会社へ共有できる範囲
費用の支払者と、行政書士業務の依頼者・情報提供先は、必ずしも同じとは限りません。契約関係を曖昧にしないことが重要です。
採用前調査は企業の採用コストという考え方もある
企業が「この候補者を適法に雇用できるか」「予定業務に合う在留資格を検討できるか」を確認するために依頼する調査は、企業の採用判断に用いるものです。
日本人採用でも、人材紹介料、適性検査、リファレンスチェック、面接工数などの採用コストが生じます。外国人採用に固有の在留資格確認も、採用の可否を判断するためのコストとして会社が負担する設計は合理的です。
特に、会社が特定の候補者を早期に採用したいと希望し、複雑な履歴を精査して可能性を探る場合、その調査は本人だけの利益ではなく、会社の採用判断にも直接利用されます。
本人負担とするなら、採用条件と分けて説明する
本人に費用負担を求めること自体が、すべて直ちに禁止されるという整理ではありません。しかし、本人が払わなければならない理由、依頼する業務、返金の有無、許可保証ではないことを事前に説明し、本人が自由に判断できる状態にする必要があります。
特に注意したいのは、会社が依頼したい特定の行政書士への調査費用を、本人が支払わなければ内定を取り消す、という形に見える設計です。
行政書士による調査は、法令上すべての外国人が必ず受けなければならない公的手続ではありません。会社独自の採用条件と、行政書士が提案する業務を一体のものとして本人へ伝えると、「行政書士が支払いを内定条件として要求した」と誤解されるおそれがあります。
会社の採用判断、本人の費用負担、専門家の受任条件は、それぞれの責任主体を明示します。
「払わなければ内定取消し」は慎重に検討する
在留資格上の就労ができなければ入社できない、という条件と、特定の調査費用を本人が負担しなければ内定を取り消す、という条件は同じではありません。
前者は適法に就労するための前提に関係します。後者は会社が設定する採用・費用条件です。
内定通知の内容、本人の承諾、条件を追加した時期、説明経緯によっては、在留資格とは別に労働契約上の問題が生じます。内定取消しや新たな費用条件を本人へ通知する前に、社会保険労務士、弁護士等へ相談することが望まれます。
退職時の返還・貸付・免除には労務上の検討が必要
会社が費用を立て替え、一定期間勤務すれば返済を免除し、早期退職時には返済を求める制度を考えることがあります。
しかし、設計によっては、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じた労働基準法16条との関係が問題になります。また、労働することを条件とする前貸しの債権と賃金を一方的に相殺することは、同法17条との関係で検討が必要です。
名称を「貸付金」にすれば常に適法になるわけではありません。貸付の実態、金額、返済条件、勤務継続との結び付き、本人の自由意思、賃金からの控除方法などを確認します。
この部分は在留資格の申請業務とは別の労務・契約問題です。制度を本人へ提示する前に、労務・法律の専門家へ相談します。
許可保証と費用を結び付けない
在留資格変更は、必要な要件と資料を整えれば必ず許可されるというものではありません。法務大臣の判断を伴い、個別事情を踏まえて審査されます。
したがって、行政書士報酬は「許可という結果の購入代金」ではありません。調査、方針検討、書類作成、資料整理、申請取次など、委任した業務に対する報酬です。
成功報酬を設定する場合でも、着手時に発生する調査・作成業務、途中で申請できないと判明した場合、不許可・取下げとなった場合の取扱いを契約書で明確にします。
費用表は目的・負担者・条件を並べる
社内で費用を検討するときは、次のような表を作ると整理できます。
| 費用項目 | 目的 | 依頼者 | 支払者 | 発生時期 | 不許可・採用中止時の取扱い |
|---|---|---|---|---|---|
| 事前調査 | 採用・申請可能性の前提整理 | 会社等 | 要協議 | 調査着手時 | 作業報酬として返金なし等 |
| 申請支援 | 変更申請等の支援 | 本人・会社等 | 要協議 | 正式受任時等 | 契約で明示 |
| 官公署手数料 | 許可・交付手続 | 申請人 | 要協議 | 所定時期 | 制度に従う |
| 翻訳・資料取得 | 立証資料の準備 | 本人・会社等 | 要協議 | 発注・取得時 | 実費精算等 |
「要協議」の部分を放置せず、本人へ説明する前に会社の方針を決めます。
社内で決めるべき7項目
- 会社が採用したい人材であるか
- 現在の在留資格で就労できるか
- 変更申請前に有償調査が必要か
- 会社と本人のどちらが行政書士へ依頼するか
- 各費用を誰が負担するか
- 許可前の内定・入社日をどう扱うか
- 採用を中止する場合、誰がどの根拠で本人へ説明するか
行政書士に「採用すべきか」を決めてもらうのではなく、行政書士から在留資格上の確認結果と未確定要素を受け、会社が採用判断を行います。
阿部隆昭の視点――費用の押し付け合いにしない
許可されるか分からないから会社は払いたくない、就労できないから本人にも払えない。このような行き詰まりは、費用の目的と責任を最初に分けていないと起こります。
会社が特定の人材を必要としているのであれば、在留資格の事前確認や資料調査も採用コストの一部です。一方、本人固有の経歴整理や本人が主体となる手続には、本人が一定の費用を負担する考え方もあります。
重要なのは、どちらが得をするかという感覚だけで決めず、依頼者、業務範囲、支払者、採用条件、返金条件を文書で分けることです。専門家の提案を会社の内定条件へ転用する場合には、誰の判断で設定した条件かを明示する必要があります。
外国人採用の事前調査・申請支援に対応しています
行政書士阿部総合事務所では、採用前の在留資格確認、複雑な申請履歴の調査、申請方針の検討、在留資格変更申請の支援に対応しています。
- 事前調査と申請業務の範囲を分けたい
- 会社と本人のどちらを依頼者・支払者とするか整理したい
- 許可前の内定条件を明確にしたい
- 本人負担や貸付制度を検討している
- 労務専門家と連携して進めたい
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