「外国人に補助金はやめろ」

事実は、補助金を受け取るのは「外国人本人」ではない。外国人を受け入れる企業に向けた助成金である

SNSでは、ときどき「外国人に補助金を出すのはおかしい」「外国人に補助金はやめろ」「外国人に補助金を出すことが日本人差別だ」という主張を見かけます。

ただ、この類の主張、少なくとも公的資料で確認できる制度の実際とは一致していません。

「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」の制度趣旨

厚生労働省が運用している、外国人雇用に特化した全国制度の中心は、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」。

しかし、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」は外国人本人に現金を渡す制度ではなく、外国人を受け入れる企業が就労環境を整えたときに、事業主に対してその費用の一部を助成する制度です。

外国人労働者は、日本の労働法制や雇用慣行などに関する知識の不足や言語の違いなどから、労働条件・解雇などに関するトラブルが生じやすい傾向にあります。この助成金は、外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を行い、外国人労働者の職場定着に取り組む事業主に対して助成するものです。

(厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」)

厚労省の説明では、対象となるのは、雇用労務責任者の選任、就業規則等の多言語化、苦情・相談体制の整備、一時帰国休暇制度の整備、社内マニュアルや標識類の多言語化といった、企業側の受入体制整備です。

しかも、企業単位で支給され、一定の離職率基準を満たさなければ受給できません。

つまり、制度の狙いは「外国人にお金を配ること」ではなく、雇った企業に適正な受入れをさせ、職場定着とトラブル防止を進めることにあります。 (厚生労働省)

「人材確保等支援助成金」制度の背景

では、なぜこうした制度ができたのか。ここも厚労省の説明は明確です。

外国人労働者は、日本の労働法制や雇用慣行に関する知識不足、言語の違いなどから、労働条件や解雇をめぐるトラブルが生じやすい傾向がある。

だからこそ、企業側が就労環境を整え、外国人が安心して働けるようにする必要がある。これが助成コースの制度趣旨です。2007年に告示された外国人雇用管理指針でも、事業主には、関係法令の遵守、適切な待遇の確保、魅力ある職場環境の整備、日常生活上・社会生活上の支援などが求められています。 (厚生労働省)

時系列で見ると、この流れは突然出てきたものではなく、2007年に外国人雇用管理指針が告示され、外国人雇用について事業主が講ずべき措置が示されました。2020年度には、人材確保等支援助成金に外国人労働者就労環境整備助成コースが追加。

そして現在、外国人労働者数は令和7年10月末時点で2,571,037人と過去最多です。企業側が外国人を雇う理由も、2025年公表の調査で「労働力不足の解消・緩和のため」が69.0%と最も多くなっています。国は、企業が外国人を雇う現実が広がる中で、受入れ企業側の管理と定着支援を強める方向で制度を組んでいるわけです。 (厚生労働省)

補助金のメリットを受けるのは、外国人本人ではない

ここで大事なのは、「外国人に補助金」という言い方を、そのまま制度の事実として受け取らないことです。

公的資料ベースで言えば、外国人雇用に関する全国制度の中心は、外国人本人への現金給付ではなく、受入企業が多言語化や相談体制整備などを行うための助成。JETROの高度外国人材支援も、公的支援ではありますが、費用助成等の支給は行わないと明記されています。経産省の製造業分野の支援も、相談窓口やセミナー等が中心です。つまり、公的機関の外国人雇用支援は、外国人本人へのばらまきではなく、企業や受入れ体制の整備に重心があります。 (ジェトロ)

さて、「外国人へ補助金やめろ」の言説が、事実として誤りであることが確定したうえで、議論はここからです。

企業の受入れ整備を公費で支えるべきか、どこまで支えるべきか、対象範囲は適切か、といった論点は十分にあります。

ですが、その議論も「誰に払われる制度なのか」「何のための制度なのか」といった「前提を整理し、言葉の意味を統一し、それから議論を行うべき」なのです。

なぜなら、それをしなければ、誤った相手に誤った打ち手を実行してしまう可能性があるから。

外国人本人への給付ではなく、受入企業の就労環境整備と職場定着を促す助成制度という事実と、助成することの是非は別の議論。

外国人問題・移民問題は、賛成か反対かの一言で片づく話ではありません。だからこそ、制度の名目ではなく、その中身を確認する。

誰に、何のために、どういう形で支援が行われているのかを見極める。その積み重ねが、現実に即した議論への第一歩になるのだと思います。

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