東京都北区には、令和6年(2024年)9月1日時点で外国籍区民が初めて3万人を超え、総人口に占める割合は7.6%に達しています。国籍も100を超えており、多国籍化が急速に進んでいます。
この現状に対して、北区は2025年に多文化共生指針を改定し、10年間の取組方針を定めました。やさしい日本語・多言語対応、日本語学習支援、防災、就労、子ども・教育と、幅広い施策が並んでいます。
しかし、行政の計画と現場の実態の間には、まだ埋まっていない空白があります。その空白を埋める具体的な手立てとして、私は一つの制度に注目しています。
外国人支援コーディネーターとは何か
出入国在留管理庁は、令和6年度(2024年度)から「外国人支援コーディネーター養成研修」を実施しています。これは、生活上の困りごとを抱える外国人の相談に応じ、適切な支援機関へつなぐ専門人材を育成・認証する制度です。
この制度が求める能力は4つです。
- 外国人の在留状況を正確に把握する能力
- 異なる文化や価値観を理解する能力
- 外国人の複雑・複合的な相談内容に対して適切な解決まで導く能力
- 外国人を適切な支援へ円滑につなげる能力
役割は「相談対応支援」と「予防的支援」の2種類に整理されています。相談対応支援は、相談者と連携先を最短でつなぐ役割です。そして重要なのがもう一方の「予防的支援」です。生活上の困りごとが深刻化する前に、外国人に必要な情報を届け、問題の発生を未然に防ぐことを目的としています。
令和6年度は52名が認証され、令和8年(2026年)までに800名の養成が予定されています。
東京23区内の配置状況——北区は空白
入管庁が公表している外国人支援コーディネーター所属機関リスト(令和7年6月1日現在)を確認すると、東京都内で認証者が配置されている機関は以下のとおりです。
- 新宿区:東京都外国人相談、(公財)東京都つながり創生財団(2名)
- 港区:港区産業・地域振興支援部地域振興課
- 練馬区:練馬区地域文化部地域振興課(外国語相談窓口)
全国で52名が認証されたうち、東京都内の特別区に配置されているのはこの3区のみです。
外国籍区民の割合が7.6%、人数が3万人を超えた北区には、現時点で1名も配置されていません。
なぜ北区に必要なのか
北区が現場で直面している課題を振り返ると、コーディネーターの必要性は明確です。
北区の外国籍区民の生活相談は、在留資格、就労、子どもの就学、住まい、医療、防災情報の未到達など、複数の分野にまたがる複合的な内容になりがちです。現行の窓口体制では、それぞれの担当部署に分散して対応されており、外国人がたらい回しになるケースは珍しくありません。
外国人支援コーディネーターは、まさにこの「複合的な相談をまとめて受け止め、最短で適切な支援につなぐ」ために設計された人材です。
また、予防的支援の観点も重要です。在留資格の更新を知らないまま期限を過ぎてしまう、就労条件を誤解したまま働き続けてしまう——こうした状況の積み重ねが、結果として不法滞在や不法就労という深刻な問題につながります。問題が起きてから対処するのではなく、起きる前に情報を届け、制度につなぐことが、コーディネーターの本来的な役割です。
外国人の不法滞在化を防ぐことは、地域の安全と、外国人自身の権利保護の両方にとって不可欠です。北区の現状は、この予防的支援の必要性を強く示しています。
提言:北区に外国人支援コーディネーターを配置する
以上を踏まえて、私は次の提言をします。
北区は、出入国在留管理庁が認証する外国人支援コーディネーターを、北区役所内または北区が設置する相談窓口に配置することを検討すべきです。
具体的な進め方として、3つのステップを提案します。
第一に、北区役所内から養成研修の受講者を選定することです。入管庁の養成研修は自治体職員も対象としており、既存職員の専門性向上という形でコーディネーターを育成することが可能です。新たな採用予算を必要とせず、現実的な第一歩です。
第二に、配置先を北区の外国人相談窓口と明確に位置付けることです。現在、北区はポルトガル語・英語などの通訳対応を会計年度任用職員で行っていますが、コーディネーターはその上位に位置する「つなぎ役」として機能します。言語対応と支援コーディネートを組み合わせることで、窓口の実効性が格段に上がります。
第三に、区の多文化共生行動計画との連動を図ることです。北区が掲げる多文化共生の取組は理念と計画が整いつつありますが、「困りごとを持った外国人を、支援に最短でつなぐ人」が現場に立っていなければ、計画は機能しません。コーディネーターの配置は、計画を実働させるための人的基盤です。
結論
外国人との共生は、理念の問題でも感情の問題でもなく、現場の設計の問題です。
新宿区・港区・練馬区にはすでにコーディネーターがいます。外国籍区民が3万人を超えた北区に、なぜいないのか。この問いは、北区行政が向き合うべき現実的な課題として提起されるべきです。
外国人支援コーディネーターの配置は、外国人住民のためだけでなく、地域全体の安全と安心のための投資です。北区から、この制度の活用を始めるべきだと考えます。
参考にした公的資料
- 出入国在留管理庁「外国人支援コーディネーター養成研修」(https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/04_00076.html)
- 出入国在留管理庁「外国人支援コーディネーター所属機関リスト(令和7年6月1日現在)」
- 出入国在留管理庁「外国人支援コーディネーターの育成・認証等」
- 北区多文化共生指針【令和7年(2025年)改定版】
- 北区多文化共生推進検討会(第5回)会議資料(令和6年10月2日)
