外国人がすぐ辞める本当の理由——「リアリティショック」を知らずに外国人雇用を始めてはいけない


外国人を採用したが、すぐに辞めてしまった。そういう経験をした経営者が、次にこう言う。

「外国人はどうせすぐ辞める。もう採らない」

これが、日本の中小企業における外国人雇用の失敗パターンの典型だ。しかし多くの場合、問題は「外国人だから辞めた」のではなく、「辞めやすい構造を知らないまま受け入れた」ことにある。


リアリティショックとは何か

厚生労働省が公表している「受入・定着マニュアル——外国人と一緒に働くために」の中に、外国人の定着に向けた重要ポイントとして2つが挙げられている。

① リアリティショックの予防 ② コミュニケーションの工夫

このうちリアリティショックという言葉は、多くの経営者にとって聞き慣れない概念だ。定義はシンプルだ——「事前情報と現実の乖離」。

外国人が来日前に持っていたイメージと、実際に働いてみてわかる現実との間にギャップが生じる。そのギャップが大きいほど、心理的なショックが生まれる。これがリアリティショックだ。


外国人が抱くイメージと、現実のギャップ

マニュアルの中に、外国人が来日前に持ちがちなイメージの例が示されている。

「ホームページが漢字ばかりでわからない」「母国の食べ物を買えるのかしら」「夜勤ができるようになれば給料が上がる」「仕事はYouTubeで見たから大丈夫」——。

そして現実との乖離として起きるのが、「思っていた残業時間数と違う」「消費額が想定と違う」「もっと早く夜勤に入れると思っていた」などだ。

日本人社員でも入社前後でイメージのズレは起きる。しかし外国人の場合は、地域や生活の情報量が圧倒的に少ないまま来日するため、リアリティショックの振れ幅が大きくなりやすい。


事前情報を「十分に」与えることの難しさ

一見、解決策はシンプルに見える——事前情報を増やせばいい。

しかし実務上、これは意外と難しい。

何を情報として与えれば外国人の期待値を満たせるか、受け入れ側には分からないことが多い。加えて、受け入れ企業の経営者側には「ここは言わなくても分かるだろう」「普通はそうだよね」という前提が存在している。日本人には当然のことでも、外国人にとっては全く前提が異なる文化・慣習のもとで育ってきていることを忘れがちだ。

そこで重要になるのが、2つ目のポイントである「コミュニケーションの工夫」だ。


コミュニケーションがリアリティショックを防ぐ

リアリティショックは、事前情報のギャップだけが原因ではない。来日後に「何かおかしい」「思っていたと違う」と感じたとき、それを言語化して上司や周囲に伝えられるかどうかが、定着の分かれ目になる。

伝えられれば、誤解を解くチャンスが生まれる。伝えられなければ、モヤモヤが積み重なり、ある日突然辞める。

ここで日本語能力が直接的に効いてくる。日本語能力が高い外国人は、不満や疑問を言語化して伝えることができる。受け入れ企業側も状況を把握できる。問題が小さいうちに対処できる。

N1を持つ外国人なら、日本人と遜色ないレベルのコミュニケーションが多くの場合可能だ。逆に日本語能力が低いままだと、コミュニケーション不全が離職の直接的な引き金になりやすい。


最初の外国人雇用が最も危うい

実務として強調したいのが、「最初の外国人雇用が最も離職リスクが高い」という事実だ。

先輩の外国人がいれば、同じ母国語で新入社員に文化や職場のルールを教えることができる。教える側も育つ、教わる側も定着する——という好循環が生まれる。

しかし最初の受け入れは、そのサポートがない。職場に同じ言語を話す人間がいない状態で、事前情報と現実のギャップに直面することになる。

ここで失敗すると、経営者は「外国人はすぐ辞める」という結論を出して次の採用をしなくなる。最初の一人の失敗が、その後の外国人雇用の可能性を閉じてしまう。

だからこそ最初の外国人雇用においては、リアリティショックの予防とコミュニケーションの工夫を、意識的な準備として組み込む必要がある。


外国人雇用は、組織を変える契機にもなる

ここで少し違う角度から言いたいことがある。

外国人一人を受け入れることで、組織に思わぬ変化が起きることがある。「外国人対応に前向きな社員って誰だろう」「英語が堪能な社員がいたのか」——これまで埋もれていた人材が可視化される。

停滞感のある組織に、外国人新入社員を受け入れることで活気が生まれたケースを実務の中で複数見てきた。これは戦略的に意図した組織変革ではなく、外国人雇用という契機が組織の気づきを引き出すという現象だ。

外国人雇用は、人手不足対策という側面だけでなく、組織の底上げという視点でも検討に値する。


外国人雇用の定着は、外国人問題の解決につながる

最後に、少し広い視点で言いたいことを添える。

政府が「不法滞在者ゼロプラン」を動かしている背景には、ルールを守らない外国人への対処という側面がある。しかし政府が目指しているのは、「ルールを守る外国人と安心して暮らせる共生社会」だ。

適法に在留する外国人が、適切な職場で定着して働いている状態が増えれば増えるほど、外国人への不安や不満は実態的な根拠を失っていく。

外国人雇用をきちんと設計し、リアリティショックを防ぎ、定着を実現することは、個別企業の採用コスト問題であるだけでなく、外国人との共生という社会的な課題とも直結している。

行政書士として、外国人の在留資格申請を支援するだけでなく、この定着という次の段階まで視野に入れてサポートしていきたいと思っている。


動画版はこちら:


参考にした公的資料

  • 厚生労働省「受入・定着マニュアル——外国人と一緒に働くために」(地域外国人材受入・定着モデル事業)

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